1 Apr – 29 Apr 2023

鈴木孝幸/Takayuki Suzuki
地図を見るアルバトロス - place/bird -

13:00-18:00
日・月 休廊
Closed on Sun, Mon

※ ご来廊の際には事前に電話かメールにてご予約をお願い致します。(土曜日に限り予約不要)

英名はAlbatross。「白く大きな海鳥」という意味のラテン語やポルトガル語を語源とするそうです。日本では「アホウドリ」として知られるこの鳥は、夏にはベーリング海やアリューシャン諸島、アラスカ湾周辺で暮らし、冬に日本近海の島、無人島を選んで繁殖をするということです。
彼らの生息地を辿ると、そこには長い時間の中で形成された太平洋各地の海溝とそれに付随する火山群島の存在が見えてきます。そして、その目と鼻の先には私たち人間の暮らしが。生きるために外敵の少ない島を選択し、その絶妙な境界上に暮らしを形成してきたということでしょう。海を中心とする彼らからすれば、その火山群島の存在は安全の要、防護柵、越えてはいけない一線であったのかもしれません。広げれば2mにもなる翼を持つこの鳥は、長時間羽ばたかずに飛ぶことができるようです。小笠原諸島からアリューシャン諸島へ、地球の造山活動とともに生きる、非常にスケールの大きな生き物であるようにも思えてきます。

彼らは一体何を見てきたのか。

途方もなく広い太平洋上で、まるで地図でも見ているかのように遠く離れた小さな点のような島を巡る。その時々ランダムに吹く大気の流れの中で、適地をうまく選択していく。地図を片手に移動することに慣れてしまっている私たちからすれば、不思議にすら感じられます。上空からの視点、横寄りについた目は、確かに広い視野を与えてくれることでしょう。そこから見える光景は、横の広がりを持った地図のようなものなのかもしれません。ただ、決して平面的なものではありません。集団営巣に適した広い場所、死角のある崖、滑空のための斜面等を備えた、凹凸に満ちた彫刻のような地図であることでしょう。島に降りたって近くで見てその場所を感じ、時には噴煙をあげる島の姿に繁殖地の変更をしたこともあったかもしれません。彼らの見ている、認識している地図は、地下からのマグマの上昇や地下深く張る植物の根のような目に見えない世界をも含む、豊かな地図なのではないでしょうか。それは、前後も上下も斜めも横もあり、非常に立体的で、ハザードマップのような情報も盛りだくさんなことでしょう。生きる中で、自然と彼らの中に、地図は形づくられてきたのかもしれません。まあ、想像にすぎませんが、、、

「見る」というのは、決して主体と対象との間に一方的な関係を築くものだけではありません。目に入ったものを世界の全てとして認識を閉ざしてしまうことでもありません。「見る」ことで対象の周囲を想像したり、そこに物理的にも心象的にも境界を定めたり、時には「見られる」という相互関係の中で「見る」こともあるかもしれません。
「見る」から始まる、認識される世界の広がりは、さまざまな可能性に溢れているのではないでしょうか。

さて、アホウドリの由来について書き忘れました。
それは、人が近寄っても逃げなかったからです。簡単に捕まえられる「アホウな鳥」ということのようです。結果彼らは羽毛目的で乱獲され、個体数を減らしました。ものの数十年で「アホウな鳥」は、絶滅危惧種となりました。その後乱獲した側の反省から、保護や繁殖地の整備が行われ、現在では個体数は回復してきているとのことですが、ここにも「見る」ことの問題が見え隠れするようです。「アホウ」であるかどうかについて、それを顧みる複数の視点が欠けていた。アルバトロスの地図には乱獲する「ヒト」は載っていなかった、見えていなかった。
「見る」ことはとても繊細です。彫刻もまた視界を閉ざす装置とならないように、よく見て、よく知って、視覚の尊さを引き出すものでありたい、と、地図と近所の土砂崩れを眺めながら、鳥の視点を想像しています。

鈴木孝幸