中條直人 / Naohito Nakajo

略歴
1960  三重県生まれ
1985  愛知県立芸術大学美術学部美術科絵画専攻(油画)卒業
愛知県名古屋市在住

Biography
1960 Born in Mie Prefecture
1985 Graduated from Aichi University of the Arts
2022 Lives in Nagoya

「子供たちのために ー変身ー」2022
中條直人

赤について
私は赤という色が一番綺麗だと感じる。
赤という色は鮮やかである程、他を圧倒する強さと華やかさを併せ持ち、意識を集中させる
ことで抜群の存在感に浸ることのできる色であるからだ。光に向かって目を閉じれば瞼の裏
側が赤色の光で満たされることに気がつくようにこの色は元々、人間の内にあり、活発な肉
体的エネルギーを放つ生命の色なのである。さらに肉体をもって生きる私たちの様々な欲求
と本能に結びつく色彩であるからこそ多弁となる。これは感受する側の解釈の仕方が多いと
いう観点からそれだけ他の色彩より多面的であり、魅力に溢れた色だと言わざるをえない。

全ての色彩は光という物質でできているため、その性質や仕組みは光の状態に大きく左右さ
れる。赤く見えている現象とは可視光線の波長が 640~770nm の範囲内にあり、これは光が
色彩として見える電磁波の波長範囲を表す。赤色は他の色彩に比べてその範囲が2倍以上あ
り、可視光線内の波長の長い方の端に位置する。その隣は可視光線外になり、熱線と呼ばれ
る赤外線になる。赤色を見た時にわずかでも熱のイメージを感じるのはそのためではないだ
ろうかと推測できる。しかし面白いことに赤い光の温度はさほど高くはなく、高くなるほど
オレンジ、黄、白、そして青になるそうだ。つまり赤色を見た時に熱さをイメージするのは
自然の火との関係の深さから経験や習慣など、人の生活環境の意義が大きいと考えられる。
真っ赤に燃える炭火の色合いには大変魅了されるし、暖かさや優しさまでも感じられること
だろう。この皮膚感覚の近さこそが暖色と呼ばれる由縁なのかもしれない。

波長が長いということには赤の色相の種類も多いと考えて良いのだろうか。赤色はそれ自体
の明度は中程度以下であるが、強さと重さを感じる。明るいと優しさや可愛さにつながるし、
暗いと怖さが表われる。また高彩度になるほど輝きが増し、明るくさえ見える程刺激的であ
る。この不思議さにゴージャス感が宿るのかもしれない。赤は存在の強さばかりでなく、様
々な形で人の感情と対峙し、入り込み、それぞれの言葉となって表れ出る。その自己主張の
強さがこの色の多弁さということだと考えたい。

抑制の効かない子供の感情
子供たちの情操的発達の過程において強いものへの憧れがある。変身願望がその一つだ。
子供たちにとって望んだ強いものはまさしく正義であり、その正義の姿に自らが変身して想
定した悪をやっつける。強い肉体への憧れは、決して悪には負けないという勝利への大きな
希求なのだ。全ては想定内のドラマであるが、その感情の高ぶりに満たされた場合、子供た
ちにとっては一定の自己満足感を得る為にいかにカッコよく立ち振る舞うかが大事になって
くる。しかしそれが上手く行かない時、また思わぬ僅かな狂いが生じたりすると全てが台無
しになってしまうことがある。その時の感情はシナリオのそれとは違い、眠っていた何かが
急に起き上がったりする。それはその子にとって初めて知る感情かもしれないし、予測のつ
かない未知のものでもあるだろう。それは抑制の効かない感情となってその子を支配し、思
わぬ行動を引き起こしかねない。また支配したその感情はその子の感受性の一つとなって共
に成長するかもしれない。子供とは幻想と現実の間で揺れ動く未成熟で想像力に乏しい人間
の本能に近い姿であるからなのだろう。しかしその行動が逆に心の働きを大きく広げるため
に準備された大変重要な行動系の一つでもある。まさにこれが子供における剥き出しの世界
観なのだ。

表現としての色彩
色彩はアプリオリにその仕組みを持ち、各色特有の反応によって人間の感覚や感情を刺激し
揺さぶる。色彩心理学によれば人の心との関係には、だいたいの傾向があることはわかって
いるが、これは個人の経験に大きく左右されるもので決して皆同じ反応では無い。時には全
く反対の感情を抱く人さえいる。そのような色彩を言葉として考え、言葉として捕まえよう
としたら指の間からスルスルと流れ落ちてしまう正体不明のようなものであると感じた。私
はそのような色彩を考察する原因として「色即是空 空即是色」の言葉に惹かれ、1994年に
『art-exhibition 2』展においてものの実体を表す試みとして、真っ白な台座状になった複数
の石膏板の上に花の形態のシルエットを1つずつ薄いレリーフで制作した作品「色 空」を
発表した。これはものの存在感の希薄さを考えたもので、そこから実体を色彩のように一定
の条件が無ければ同じようには見えない、存在しないようなものだと観念的にとらえたから
だった。翌1995年の『赤 1995』の個展では写真の構成による作品を発表した。それは赤く
見える自然や動植物などの形態の一部分だけを断片的に様々な角度から複数枚撮影し、それ
らを任意に格子状に繋ぎ合わせてできた不完全な全体像から、元の一つの実体を想起させる
ための手法をとった。写真を用いた理由としては形態が見えているということは光があるか
らで、その光しか写し込まない写真というメディアを用いるのが適当であると考えたからだ。

私がなぜ赤色をモチーフとして選んだかについては、育った自然環境と直感的に色彩に対す
る大きな好奇心があったと感じる。そして赤色というものが私の中ではあまりにも当たり前
に存在し、近すぎて正体がよく理解できていなかったのかもしれない。だからその本当の意
味を問い続けようと考えたのだろう。
その後に制作した『A PRIORI Ⅰ-Ⅲ』1998年、『A PRIORI Ⅲ』2000年、『テーマ展 中條直
人 – アプリオリ』2004年、『子どもたちのために』2014年、などの油彩画作品を発表するう
ちに表現として記号化された色彩を扱うような概念的、図式的な手法に段々と懐疑的になっ
ていった。そして色彩とは提示するようなものではなく、感じとらせるものであるべきだと
考えるようになり、私自身が色彩を心から感じて自らの経験として理解しなければ表現でき
ないだろうと、そういう結論に至ったのである。つまり色彩とは生の感覚を伝えるものとし
て表すものであり、閉じ込めるのではなく、大いに共鳴させてあげなくてはならない存在で
あると考えたい。またそうしない限り色彩感覚としての未知の領域には踏み込めないように
思われる。色彩は一色のみで捉えようとするだけでなく、他の色との組み合わせによって生
じる差異や、同調することで表われる共鳴し合う新たな輝く光の発見は、私とって生きる悦
びにつながる。

最後に
常に色彩の中心にいるような自己主張の強い赤色が入ることによって絵は急に活気付き、動
き出し、その強さによって画面全体が支えられているように感じる。
太陽の一日の始まりと終わりに見せる光による赤色の効果。大地から噴出したマグマが夜の
闇の中で光放つ赤色の印象。食べるために獲物の体を切り裂いたり、怪我をして出血した時
の赤色の存在など、これらは生命をつなぎ、生かされる為に地球に備わった色彩なのだ。だ
から私には自然の一部分である肉体の内なるイメージからこれを切り離して考えることは難
しい。このように考えれば肉体の生命維持に直結する色だということであり、生きる活力の
源泉となっている、そういう色なのである。
こんなにも存在意義の強い赤色だからこそ、一番綺麗な色であると私は感じる。

 

主な個展
2022「子どもたちのために ー変身ー」 Gallery HAM(名古屋)
2014「中條直人展 子どもたちのために」織部亭(一宮)
2010「中條直人展」 織部亭(一宮)
2009「BEHIND」 名古屋大学教養教育院プロジェクトギャラリー clas(名古屋)
2004「テーマ展 中條直人-アプリオリ」 愛知県美術館 展示室6(名古屋)
2000「A PRIORI Ⅲ」 豊田市美術館 ギャラリー9(豊田)
1998「A PRIORI Ⅰ-Ⅲ」 豊田市美術館 ギャラリー9(豊田)
1995「赤 1995」 PIG NOSE GALLERY(京都)
1991「中條直人展」 Lovecollection Gallery(名古屋)

主なグループ展
2019「アイチアートクロニクル展1919-2019」 愛知県美術館(名古屋)
2011「古典」ALA Project No.4 アートラボあいち(名古屋)
2007「City_net Asia 2007」 ソウル市美術館(ソウル)
1994「art-exhibition 2」 名古屋市民ギャラリー(名古屋)

Selected solo exhibition
2022 “For the children -Transformation-” Gallery HAM (Nagoya)
2014 “For the children” Oribetei (Ichinomiya)
2010 solo exhibition Oribetei (Ichinomiya)
2009 “BEHIND” Nagoya University project gallery「clas」 (Nagoya)
2004 “NAOHITO NAKAJO – A PRIORI” Aichi Prefectual Museum of Art (Nagoya)
2000 “A PRIORI Ⅲ” Toyota Municipal Museum of Art gallery 9 (Toyota)
1998 “A PRIORI Ⅰ-Ⅲ” Toyota Municipal Museum of Art gallery 9 (Toyota)
1995 “RED 1995” PIG NOSE GALLERY (Kyoto)
1991 solo exhibition Lovecollection Gallery (Nagoya)

Selected group exhibition
2019 Grand Reopening Exhibition “Aichi Art Chronicle 1919-2019”
Aichi Prefectual Museum of Art (Nagoya)
2011 “CLASSIC” ALA Project No.4 Art Lab Aichi (Nagoya)
2007 “City_net Asia 2007” Seoul Museum of Art (Seoul)
1994 “art-exhibition 2” Nagoya Citizenʼs Gallery Sakae (Nagoya)